Made for Life_Interview

Vol.2

社会医療法人 中山会 宇都宮記念病院

病院の枠を超えチームで地域を守る
異例のスピードで進んだCOVID-19対策

人口50万人を超える栃木県宇都宮市。市民病院がない中、それに匹敵する医療機関として宇都宮記念病院は地域の健康を守り続けています。同院ではCOVID-19対応においてもその役割を担うべく、迅速なPCR検査装置の導入、救急外来へのCT設置、軽症者向け療養施設の設立、新型コロナウイルス入院専用病床『ゆいの杜記念病院』の開院など、次々と対策を講じてきました。前例がない中、なぜ他に類を見ないスピードでこれらの対応が実現できたのか。当事者である医療従事者の皆様とキヤノンメディカルシステムズ社員にインタビューしました。

取材日:2023年2月7日(社会医療法人 中山会 宇都宮記念病院)

Interview member

社会医療法人 中山会
宇都宮記念病院
院長

山本 雅一

社会医療法人 中山会
宇都宮記念病院
放射線科 診療放射線技師 技師長

三品 祐樹

キヤノンメディカル
システムズ株式会社
栃木支店 支店長

原川 秀幸

キヤノンメディカル
システムズ株式会社
栃木支店 営業担当課長

鶴岡 謙介

キヤノンメディカル
システムズ株式会社
埼玉支店 営業第二担当 グループ長
(当時、栃木支店 営業担当)

大渕 豪

社会医療法人 中山会 宇都宮記念病院

『行き場のない患者さんの存在をなくす』ために
地域に根差し、進化を続ける医療拠点

2次救急医療機関として、感染拡大の中、受け入れを継続

山本氏「私たちは『すべては患者様のために』を理念とし、1963年の設立以来地域医療の向上に努めてきました。2008年にJR宇都宮駅からほど近い中心地に新病院を開院し、2009年には輪番制の2次救急医療機関の指定を受け、年間約4000台の救急車を受け入れています。2020年初めから世界中でCOVID-19の感染拡大が続く中でも搬送件数に大きな変化はなく、通常の受け入れを行ってきました。そんな中、PCR検査装置を県内で先駆けて導入したのをはじめ、救急車専用入口スペースに医療用テントとプレハブ隔離室4室を設置し、発熱患者の診察が行える体制を整えました。さらに重篤な患者さん用に人工呼吸器管理が可能な陰圧室も新設し、院内感染防止に努めています。しかし、当時感染の疑いがある患者さんを診断するために胸部CTを撮影するとなると、放射線科のある3階まで移動しなくてはなりませんでした。病院の規模を考えると通常の患者さんとの動線を完全に分けることは難しく、感染リスクがある中での運用をせざるを得なかったのです。院内でクラスターが発生すれば、救急だけでなく病院全体での大きな損害が発生してしまいます。そこで地域医療を止めることなく守り続けるという使命感から、2020年4月に救急外来へのCT増設を緊急決定しました。」

COVID-19の診断のため救急外来にCTを増設

原川「臨時理事会での方針決定後、理事長からすぐにご相談をいただき、約1ヶ月後の稼働開始を目指し動き始めました。CTは受注生産のため納品まで半年程度かかるのが通常ですが、開院以来数十年の長い信頼関係と、またお互い栃木県に根差す企業・病院として協力しなくてはという気持ちから迅速に対応しました。時間の制約はもとより、救急外来の一角を改修してCTを新設するため、限られたスペースの中どのようにCTを収めるかは営業だけでなく設計担当、サービスも特に苦心した点です。設計担当は連日プランを何案も作り技師長と調整を重ね、サービスはコロナ患者の受け入れをしている中でもリスクを回避しながら据え付けを行うなど、チーム一丸となって取り組みました。」

三品氏「CT新設によってゾーンを分け最短の動線での検査が可能になり、院内感染リスクを最小化できています。COVID-19では肺に淡いすりガラス陰影が見られることがあり、胸部CTの検査は非常に有用です。簡易検査が陰性だが疑わしいというケースの場合、PCR検査の結果が出る前に救急外来で胸部CT検査を行うこともあります。COVID-19とおぼしき所見があれば速やかに隔離していますが、実際にその後PCR検査結果が陽性だったということもありました。また、感染の疑いがある患者さんの検査は防護や消毒など手間と時間がかかります。感染の疑いのある患者さんと通常の患者さんを分けて検査できることは、通常の患者さんの検査・診断を妨げないという点においても貢献していると思います。」


救急外来の一角を改修して新設

救急外来にも専用のCTを設置し、迅速な検査を行える体制を整えた。感染疑いのある患者の検査後は寝台やガントリを消毒するなど、感染防止対策を実施している。また救急車専用入り口前のスペースには医療用テントとプレハブ隔離室4室を設置し、COVID-19感染疑いの発熱患者を院内に入れずに診察。プレハブ隔離室には監視カメラを設置して、医療用テントから患者の様子を常時確認できるようにしている。


病院内外でタッグを組み、わずか1カ月半で新病院を開設

山本氏「その後も、私たちのCOVID-19対策は絶え間なく進化していきました。2021年1月には病院の裏手にある看護師寮を軽症者用の療養施設に改修。浴室やトイレなどの設備が整い、ある程度の広さもあることから家族全員での入居も可能です。子どもと親が離れ離れになることなく療養できるため、受け入れ先としてとても重宝しています。ホテルと違い病院にも近いため、医療行為を行いやすく、いざというとき速やかに対応できる理想的な療養施設になりました。次に着手したのは入院施設です。2021年8月頃、第5波が到来し猛烈な勢いで感染者が急増していました。栃木県と対話を重ねる中、臨時のコロナ患者専用病床をつくってほしいという強い要請をいただいたのです。ちょうどゆいの杜地区にまとまった土地を保有していたこともあり、会長・理事長の強いリーダーシップのもと、11月に新病院を開院することが決定しました。」


本院から約10kmの距離に位置する『ゆいの杜記念病院』は、COVID-19患者専用の入院施設。簡易的ながらシャワーやトイレもある24床分の病室を備えている。病室内のウイルス量を低下させ2次感染リスクを下げるために、HEPAフィルターと陰圧装置も付属させた。


大渕「私たちには9月中旬に理事長から声がかかりましたが、11月の稼働開始と伺ったときは思わず耳を疑いました。しかしCOVID-19の診断にはやはりCTが欠かせないということで、救急外来での導入と同様に奔走しました。私たちのほかにも地域の工務店や建設会社などの関係者が一堂に集い、病院の会議室で毎日アイデアを出し合って形にしていきました。全員がベクトルを合わせひとつの目標に向かって邁進していくさまは、今までに経験したことのない緊張感がありましたね。感染拡大の影響で部材の手配も一筋縄ではいかない中、調整に次ぐ調整を重ね、息つく間もなく急ピッチで準備が進んでいきました。プレハブを組合せてつくる簡易的な病床であっても、感染症対策やスタッフの方々・患者さんの動線には最大限配慮が必要です。建物をつくる上での制約と、ゾーン設計を擦り合わせるのがとても大変でした。プレハブの形自体を変えることはできませんが、限られたスペースを最大限活かして運用できるよう、CTと一般撮影装置を同室に設置するなど日々タイムリーに技師長と相談しつつレイアウトにも最後までこだわりました。」

三品氏「限られたスペースにCTを設置する必要があったため、ゆいの杜記念病院のCTにはコンパクトさが求められていました。機能やサイズを検討したところ、幸いにも本院の救急外来に設置したCTと同じ装置を導入することができました。対応する放射線技師は本院からゆいの杜記念病院に通うため、移動だけでもかなりの負担になります。両方の施設で使うCTが使い慣れたものであることは検査の質を保つためにも不可欠でした。」

山本氏「ゆいの杜記念病院ができたことで、検査、診断、入院、治療までの一連をスムーズに対応できる体制が整いました。ゆいの杜記念病院は本院と同様COVID-19の重点医療機関に指定され、時間外や土・日・祝日、県内はもちろん搬送困難な県外の患者さんの受け入れにも対応しています。」

CTの有効活用はこれからの救急医療の要に

山本氏「今後、救急外来におけるCTをはじめとする画像診断の存在はさらに重要になるでしょう。かつて急性腹症と言えば『開腹』一択でしたが、今ではIVRが主流です。他のモダリティと比べて分解能が高い点は大きなメリットであり、被ばく量も過去とは比較にならないほど低減しています。特に虫垂炎の診断にCTは大変有用です。かつて超音波装置が聴診器代わりと言われたように、CTが聴診器代わりになる日もそう遠くないと考えています。」

※IVR…Interventional Radiology(インターベンショナルラジオロジー)の略。X線やCT、超音波などの画像診断装置で体の中を透かして見ながら、細い医療器具(カテーテルや針)を入れ、標的となる病気の治療を行うこと。

三品氏「救急にCTが導入されたことで、検査から診断までのスピードは格段に上がっています。今までは3階の放射線科で撮影し、画像を送り、診断するという流れでしたが、救急外来にいながら医師がその場で画像を確認することができるため、患者さんが移動しているわずかな間に診断がつくこともあります。今はCT自体がワークステーションの役割を担っていると言っても過言ではありません。」

鶴岡「2次救急医療機関のうち、救急外来にCTを備えているところは決して多くありません。撮影の頻度と新設するコストを比較すると、導入のハードルはまだまだ高いようです。しかし宇都宮記念病院様の事例をはじめ、活用の幅は広がっています。今後CTの性能をさらに高めていくことで、救急医療の質の向上や医療従事者の皆さまの負担軽減に貢献していきたいと考えています。」

質の高い医療を提供し、行き場のない患者さんをなくす

山本氏「1963年に外科としてスタートした当院ですが、今では多くの診療科を抱え、総合的な医療を提供しています。また宇都宮市にある大きな病院はいずれも宇都宮駅から車で数十分かかる場所に位置しているため、駅からのアクセスが良い場所に本院をつくったのも、市民にとってかかりやすい病院となるためでした。私たちが目指しているのは『行き場のない患者さんの存在をなくすこと』です。市民が必要とする安心・安全な医療をタイムリーに届けることをスタッフ一人ひとりが意識し、日々業務に当たっています。たとえば大学病院では緊急性が低いと判断された場合、CTやMRIなどの検査が数日間待ちになることも珍しくありませんが、ここでは医師のオーダーがあれば当日のうちに対応しています。当院の『すべては患者様のために』という言葉は単なる目標ではなく、守るべき常識として根付いているのです。キヤノンメディカルシステムズの『Made for Life』というスローガンはまさに我々の目指すところと同じ。行き場のない患者さんの存在をなくし、地域を支える質の高い医療を提供していくために、これからもキヤノンの技術やサポートに期待しています。」