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Made for Life Special case02 -後編- 「切れ目のない医療から患者さんを支える」

長門市で見た地域医療連携の
過去・現在・未来。

お話いただいた方

長門市医師会 代表理事 友近康明

地方医療の現状 - 長門市のcase -

この30年で患者数が約3割減
医師も患者も高齢化・人口減少中。

友近代表理事
長門市に医師会が発足したのは、明治20年頃のことです。合併を繰り返して現在の新しい長門市になるずっと以前から、地域医療を支えてきました。現在の会員数は、53名。年齢構成は、37~92歳で、平均年齢58.9歳。病院は中核病院3つを含めた6医療機関、診療所は16機関(内科、外科・整形外科、眼科、耳鼻咽喉科など)で構成されています。平成24年、当時の医師会長の川上俊文先生、副会長の天野秀雄先生のご尽力で、一般社団法人に組織変更し、現在に至ります。
活動内容は、全国各地の医師会とほぼ同様と思いますが、地域住民のみなさまに求められる医療の提供を責務としています。すべての人が、「幸福な人生である」と実感するためには、健康が第一の条件。そのためには、医療・保健・福祉サービスの充実が必要不可欠です。特に「かかりつけ医」は、常に皆様の近くにいて病気の相談を受け、医療を提供し、さらには適切な医療機関を紹介することが、主な役目。長門市医師会でも、かかりつけ医が中心となり、病院と診療所の連携、および診療所間の連携はもちろん、行政、療法士、ケアマネージャー、薬剤師、看護師など、さまざまな関連団体とともに、地域住民のみなさまへ安心を提供できるように活動を続けています。

長門市もまた、日本が将来的に直面する人口減少と高齢化が、先んじて到来している地域になります。ただ、医師会にも等しく同様の現象が起こっていることから、医療の需要と供給バランスが大きく崩れているわけではありません。ただ、医療圏内の専門科目に偏りが出始めていることは、悩みのひとつです。以前は医局制度があり、人員不足の専門科目については、医師を派遣していただくことができました。しかし、現在は独力で解決しなければなりませんし、他の地域と同様にその目途は付けられていない現状です。

あくまでも長門市医師会の一会員としての例ですが、私が運営する友近内科循環器科医院があるのは、市内の中心部から西へ15km、車で20分ほどの、峠をいくつか超えた小さな町。高齢化や人口減少は長門市中心部よりもさらに顕著で、私が開業した25年前と比べて、町の人口も、患者数も3割減っています。医師や看護師の成り手を新しく見つけることは、まず不可能。最小限のスタッフで運営せざるを得ない状況です。都市部のように、経営のスリム化と言えれば、格好良いのですが。
医療ネットながとが生まれた経緯

ITに長けた小さな医院の院長が
先見の明で必要性を説いて生まれた。

友近代表理事
この状況を打開しようという動きの中から生まれたのが、地域医療ネットの『医療ネットながと』です。平成24年10月に、長門医療圏内の3つの中核病院と21の診療所を結ぶネットワークとして開設しました。現在は、高齢化による配合などもあり17の診療所が参加しています。(平成31年2月4日現在)
導入に際して大きな役割を果たしたのが、長門市医師会の前・代表理事だった天野秀雄先生です。とてもITに長けた方で、「単独の診療所でできることには限界がある。これからの時代は、ネットワークを用いた解決法が絶対に必要だ。地域内で結束しないと、今後の過疎化に対抗できない」という旨の発言をされました。この意見が会員に浸透し、有志が賛同して導入することになりましたが、いま考えても先見の明があったと思います。
導入へのきっかけは、元を辿ると東日本大震災にあります。病院同士の連携方法がないと、いざという時に困ったことになると国が判断し、大きな補助をしてもらえる時期がありました。おそらく、この時にさまざまな地域の医師会が地域医療ネットを導入したのですが、長門市医師会もそのひとつというわけです。おそらく、何もない状態では、導入できる目途は付けられなかったでしょう。

非常時に必要な仕組みという側面は確かにありますが、長門医療圏のような地方にとっては、平常時の医療にも効力を発揮しています。検査や処方のデータを共有できるわけですから、無駄な検査は少なくなり、非効率的な処方も激減します。労働人口不足という状況下において診療効率が向上するわけですから、より多くの患者さんを診ることができますし、患者さんにとっても受ける医療の品質向上につながります。

もうひとつの大きな存在が、岡田病院さんです。地域内で電子カルテを最初に導入されたのですが、キヤノンメディカルシステムズさんとは、その時からのお付き合いだそうです。以後、モダリティの更新のたびに、同社製品を導入されるので理由を尋ねたところ、とても親身な対応だからとのことでした。地方の状況をよく理解しているので、抜群に対応力が早い。半日もあればほとんどのことは解決してくれるということで、医療ネットながとのプレゼンテーションを依頼しました。そこで大変分かりやすくご説明いただいたことで、お願いした次第です。実際の構築作業は、各病院の電子カルテシステムのメーカーがバラバラだったため、かなり難しかったそうですが、きっちりと仕上げていただきました。
地方医療の未来を見据えて

在宅介護・医療が標準化される前に
医師不足に何らかの解決法を。

友近代表理事
現在、医療圏内で最も深刻なことは、病院常勤医の先生方のご負担です。専門科目の偏在があると話しましたが、たとえば当地域内には、脳神経外科の常勤医はたったの1名。救急もありますから、気が休まる時間がありません。同様に、少人数で頑張っておられるジャンルとしては、小児科、産科婦人科が挙げられます。医師会としても可能な限りサポートしていますが、「せめて1人、あと1人」という根本的な問題の解決は、とても難しいですね。

行政との連携は密に行っています。長門市応急診療所に地域包括支援センターと地域医療連携室が設置され、行政主導で平成25年から地域包括ケアシステムの構築を進めてきました。特に、健康増進課や福祉課とは、地域住民の方々に、医療だけではなく福祉や介護なども含めた包括的なサービスの提供を実現すべく連動しています。代表的な具体例としては、夜間休日診療所への出務、特定健診、学校医、予防接種、介護認定審査会、警察医、産業医などの活動が挙げられます。

この流れの中で、行政は、在宅介護と医療の推進を行っています。確かに、高齢化に対して行える最善の方策なのですが、一方で在宅診療可能な開業医が減少し続けていることも事実。一人の開業医が担当できる患者数には限界があります。そこで、在宅医療・介護多職種連携情報共有システムの『在宅ネットながと』というものを新たにつくりました。これにより、訪問先でスマートフォンやタブレットを用いてリアルタイムに介護情報を入力し、閲覧が可能になったことで、正確性や効率が向上しました。また、介護士さんからは、食事や排泄物、残薬の情報なども入ってきます。質問された時には、所見を返事するため、現場の人たちも助かっているとのこと。『医療ネットながと』と連携することで、患者さんを中心とした専門医、かかりつけ医、関連職種、行政がひとつのチームとして機能する医療を実現しています。

医師会としてではなく、あくまでも山口県北部の小さな町の開業医としての感覚ですが、医療費と介護報酬の削減は大きな障害となっています。名もなき地方に人を呼び込むことは本当に大変困難なこと。若く有能な方に来ていただき、更には定住していただくには相応のインセンティブ(報酬面のみならず生活一般に対しても)の必要性を痛感しています。人材不足のまま在宅診療を促進し、開業医の本来の外来診療に支障をきたすようになれば、まさに本末転倒。そのような事態を避けるためにも、さらなる先端技術の登場に期待しています。
これからの地域医療ネットワーク

環境変化と新たなニーズに
応えてくれるのは、技術の進歩。

友近代表理事
ITなどの先端技術は、どんどん進歩していくものです。その結果、生活や仕事は、その発展とともに激変していきます。その未来を見越した改善要望や期待は、たくさんありますね。

『医療ネットながと』に対する改善案ですが、現在は診察した医院の電子カルテを私たち診療所が閲覧できる状態です。一方通行の側面は否めませんし、パソコンで何度もクリックして閲覧操作を行うという手間も必要です。将来的には、双方向かつ、より自動的に情報反映されるものになれば素晴らしいですね。

電子カルテを閲覧できるという仕組みそのものにも、改善の余地はあります。導入時は画期的だったものの、それが普通になってきたからですが、「カルテの先の情報があれば、もっと効率的かつ効果的な診療ができる」と考え始めています。

通常、カルテには症状と診断結果が記されています。つまり、主治医がなぜその診断に至ったか、なぜその薬の処方になったのか、検査データに対する解釈はどうだったのか、という根拠までは見えません。医療の記事化といわれるものですが、実現すれば地方の医療はさらに変わると思います。

ただ、目の前には医師・看護師不足という現状が横たわっています。カルテ以上のデータを作成する医療機関の負担がさらに増えるわけで、もし技術的に可能であっても、実現すべきかどうかは医師会内で慎重に議論は重ねなくてはなりません。もちろん、資金も大きな問題ですが、私たちは、「切れ目のない医療」を目指して歩んできました。在宅医療・介護で出てくる課題も含めて、一括で解決する大きなバージョンアップはどこかで必要だと考えています。このままでは、末端の診療所の負担は増える一方ですから。

私も初老になり、もうずいぶん前から体力、気力、記憶力の減退に気付いてはいます。いつまでも現状は、キープできません。本音では、最新の知識と無限の体力を兼ね備えた次世代のドクターに、へき地における在宅医療の必要性、重要性を感じていただき、従事貢献していただきたいと心から願っています。

そのような想いを実現するための、最初の第一歩が『医療ネットながと』なのかもしれません。今後の発展の土台を、フットワークが良く、技術力も高いキヤノンメディカルシステムズさんに構築していただいたことは、長門医療圏全体の安心感にもつながっています。「切れ目のない医療」の精度を、さらに高めていくためにも、キヤノンメディカルシステムズさんの開発力とサポート力に期待しています。

キヤノンメディカルシステムズは、
これからも日本全国の医療機関と連携し
Made for Lifeの理念を推進していきます。

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