臨床を見つめ、信頼を築く
エコーで支えるアジアの医療
取材日:2025年10月7日(オンラインインタビュー)
Canon Medical Systems Asia Pte. Ltd.
Ultrasound Division manager
向原 裕二 氏
PROFILE
世界的なヘルステック企業で超音波診断装置の営業からマーケティングとして携わる。その後、キヤノンで超音波診断装置ビジネスの販売、マーケティングを統括。現在はアジア地域のマネージャーとして、シンガポール、タイ、ベトナム、インドを中心に事業拡大と市場戦略をリードしている。
現在、私はアジアにおけるエコー領域のマネージャーとして、シンガポール、タイ、ベトナム、インドを中心に事業を推進しています。国ごとに医療の仕組みや政策、経済状況が異なるため、日本での医療モデルをそのまま持ち込んでもうまくはいきません。たとえば、同じ装置を販売するにしても、競合製品も異なりますし、現地の医療従事者や販売店さんの超音波に対する知識や経験に大きさな差があります。そのため相手の経験や理解度にあわせて伝え方を変えることが欠かせません。医療の「正しさ」を一方的に語っても、相手の心には届かない。重要なのは、その国の現場や人の考え方を理解し、ともに学びながら成長していく姿勢だと感じています。
エコーはCTやMRIに比べて導入・運用コストの負担が小さく導入しやすいという点がメリットで、アジア地域ではまず安価なモデルを求めるお客様の声を多くお聞きします。しかしキヤノン製品の強みは、画像の見やすさや診断のしやすさといった“クオリティの高さ”。価格以上の「価値」をどう伝えるかが問われます。各国でデモを行い、実際に装置を使っていただく機会も多いのですが、機能を並べるだけでは本当の魅力は伝わりません。鍵となるのは、“臨床をどれだけ理解しているか”という点です。診断精度の向上や治療後の生存率といった臨床上のファクトを踏まえ、先生方とともに「この装置でどう解決できるか」を考える。診断や治療の質を高めるために対話を重ねる姿勢が、信頼につながっていきます。そのため学会では展示ブースに立つだけでなく、講演を聴講し、積極的に質問を交わすなど、先生方と同じ視点で臨床課題に向き合えるよう、日頃から学んでいます。他の画像診断装置よりもエコーは患者さんに近い診断装置であり、操作者の理解や工夫によって結果が大きく変わる“人の手が活きる道具”です。臨床をともに考え、現場のリアルな課題を一緒に乗り越えていく――それが私にとっての「Made for Life」であり、エコーを通じたお客様との共創において一番面白く、奥深いところだと感じています。
アジア地域を担当することになった際、ベトナムでは肝臓と整形を中心にキヤノンのエコーを広げていこうと方針を立てました。なかでも肝臓は国としての課題が大きく、ベトナムではがんの中で肝がんが最も多くを占めています。一方、日本は肝がんの生存率が際立って高く、その知見をどう現地に活かすかが課題でした。そこで、長年肝炎啓発に取り組まれ、日本の肝臓学会をリードされている江口有一郎先生にご協力をお願いし、ハノイで開催したイベントで現地医師向けの講演と実演を行っていただきました。
その後、江口先生からのお声がけをきっかけに“ベトナム国民の命と健康を守るプロジェクト Happy Liver Vietnam”へ参画。同企画は俳優の杉良太郎さんが発案され、江口先生を中心にNPO法人などと連携して立ち上げたものです。初回は2023年、ベトナム北西部のイェンバイ省で実施。約300人が検査を受け、そのうち95人にエコーで精密検査を行った結果、5人にがんが見つかるなど、啓発の重要性を再認識する結果となりました。私たちは装置の提供や現地運営のサポートで協賛。これに加え、啓発資料をベトナム語に翻訳し、患者さんや医療従事者が“自分ごと”として肝疾患に関心を持てるよう工夫しました。活動を通じて、キヤノンがベトナムの肝炎対策に真剣に取り組んでいる姿勢が伝わり、「Made for Life」に込めた想いを知っていただく良いきっかけになったと感じています。今後も一過性の支援ではなく、現地の医療に根付く活動として継続的に関わっていきたいですね。
私が仕事で大切にしているのは「Open mind, will, Credibility」。相手の立場を理解し、誠実に向き合うこと、そして言葉と行動を一致させることが信頼につながると考えています。積み重ねた経験や知識を次の世代に受け継ぎ、仲間とともにより良い医療を支える循環をつくっていく。それが、これからの自分の役割だと思っています。
